思いは記念日にのせて
 
 そんなこと言われても、ちらっと向けられる視線が真剣なものにしか見えなくて緊張してしまう。
 これってモデルの心境なのかな。
 妙に意識してチーズ鱈をちみちみ食べているわたしの居心地の悪さに気づいているのか、悠真が楽しげに笑っている。

「なんだか幸せそうでいいよなあ」 

 描きながら普通に話し始めている。
 あ、話しても平気なんだ。

「僕だって恋人ほしいよ」
「え、いるんじゃないの。デートだって言ってることよくあるじゃない。この前はフラれたって言ってたけど」
「あんなの本気の相手じゃないよ。ちょっと誘われたから軽く食事とかつきあってるだけで深い関係じゃないって。フラれたのだって映画の趣味が合わなかったから一緒に観るのやめただけだしー」

 うわっノリ軽っ。
 同じ口で『運命の赤い糸って信じる』なんて言ってたのかと思うとがっくりくるわ。

「千晴の友達、美人だったけどな」
「……けど?」

 美花さんのことだってわかったからちらっと様子を窺うと、首を傾げてうーんとうなり声を上げる。
 小さくコキッと音が聞こえてきた。

「それだけかな」
「それだけ?」
「美人は三日で飽きるって言うからな」

 意外だった。
 悠真なら美人だって寄ってくるだろうに、見た目は重視してないんだ。
 じゃあどこを重視しているんだと質問すれば『内緒』とさも意味ありげに言う。
 それじゃわかんないとつっこめば話題をすり替えようとするし、基本自分語りは好きじゃないんだろうな。
 外国での生活についてもあんまり話してくれないし、どうもいつも悠真のペースで聞かれたことにわたしが答えて終わってしまうんだよね。
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