思いは記念日にのせて
第四話
「あれ? イズミちゃん、だよね?」
「は、はい」
席に座った霜田さんがぱらぱらと持っていた資料に目を通しはじめる。
研修メンバー一覧を見ていたようで、霜田さんは驚いた顔でこっちをもう一度見た。
「勘違いしてた。下の名前がイズミだとばかり……」
「あ、すみません」
「これ『イズミ』って読むんだ。なんて読むのかなって思ってたんだ。イデミズさんかなあって」
右隣の美人がわたしのネームプレートを指さして小声で告げる。
男性社員メンバーも「うんうん」とうなずいてこっちを見ていた。注目されるのになれていないわたしはつい俯いてしまう。
「下の名前は……えっと『チハレ』?」
「ち……ちはるです」
出水千晴と書いて『いずみちはる』
昔から一度で読まれたことはほぼなかった。そんなに珍しい名前ではないと思うけどなかなか読んでもらえない。
「そっかあ」
くくっとなんだか楽しそうに笑みを浮かべる霜田さん。
なんでだろう。新入社員達で目を見合わせて首を傾げてると、こほんとわざとらしい咳払いをしてみせた。
「じゃあ、まず俺のことを覚えてもらわないといけないので」
霜田さんが立ち上がってみんなの机に名刺をおいていく。
それを見て「海外事業部!」と驚きの声を上げたのはわたしの向かいに座ってる高部くんだった。