思いは記念日にのせて
翌朝。
なんとなく気だるくていつもより重い瞼をこじ開けると、隣には悠真が寝ていた。
しかもなんでわたし悠真の部屋のベッドで腕枕してもらっているのだろうか。いつのまにここに移ったのかもまったく覚えていないんだけど。
「ねえ、ゆ……」
起こそうと思った悠真の寝顔を見て、止まってしまう。
まつ毛長いなあ。しかも髪と同じでやや栗色がかって見える。
わずかに開いた唇。下唇がややふっくらしていてすごく柔らかそう。
つ、と指を伸ばして触れようとした瞬間我に返る。
なにしようとしてるの、わたし。
その手を引っ込めて勢いよく起きあがると、悠真がびっくりしたようでびくっと全身を強張らせた。
「あ……起きたの?」
寝ぼけ眼をぱちくりさせ、少し不安げな表情を向ける悠真。
寝起きなのにわたしのことを気に掛けてくれるなんて思わなかったからこっちもびっくりしたわ。
「運んでくれたの?」
「まあね」
うーんと大きく伸びをして大きく首をぐるぐると回し始めた。
「今メシ作るよ。ベーコンエッグくらいしかできないけど」
大きなあくびをしながら部屋を出ていこうとする悠真の背中を目で追うと、布が被ったカンバスがこの前と同じ位置に置かれているのに気がついた。
一本の赤い線が頭の中に浮かび上がる。
「ね、悠真」
「ん?」
「その絵ってさ……見てもいい?」
「いいけど、あれから全然進んでないよ」
柔らかく笑った悠真が後ろ向きのまま手をひらひらと振って部屋を出ていった。
やっぱりこの絵は悠真が描いていて、その途中って事だよね。
趣味の領域だとしてもキャンバスに描くってくらいだから結構本格的なんじゃないかなと思う。
なんとなくおそるおそる布を取ってみると、確かに前に見た時とほぼ変化なかった。
だけど完成したところを見たいと思ったのは今が初めてだった。