思いは記念日にのせて
「千晴、この人に会わせてくれないか」
貴文さんの絞り出すような声と強張った表情から静かな怒りと戸惑いを感じずにはいられない。
「……ただの幼馴染です」
「それはさっきも聞いた」
「なら――」
「いくら幼馴染でもひとり暮らしの恋人の家に別の男が入っていくのを許せると思うか?」
潜めた声だけど隠しきれない憤りが伝わってくる荒々しい口調に背筋に冷たいものが伝う。
だけど貴文さんの言っていることは至極当然のことだ。
もし自分が同じ場面に出会ったら同じように疑うだろうから、気持ちはわかるもの。
「違うんです、この人の家うちの隣なんです」
「――え?」
貴文さんと片山課長の驚きの声がハモる。
そうだ、片山課長にも悠真が幼馴染とは話したけど家が隣なことは言ってなかったんだっけ。
悠真が小学校時代に転校してきて隣人になったこと、そして再び引っ越していってまた戻ってきていることを簡潔に説明した。
「この画像では親しげに見えるかもしれないけど……お互い酔っていて支え合ってるだけで、この後家の前で別れました。本当です」
信じてほしい。
その気持ちを強く込めて話したのが効いたのか、強ばっていた貴文さんの表情が徐々に穏やかさを取り戻してゆく。
「そう、だったのか」
はあっと大きなため息を漏らした貴文さんが髪をかき乱して首を横に振る。
なんだかひどく悲しげに見えるんだけど、本当のことを言って信じてくれたんじゃないのかな。
なぜだか一抹の不安を覚え、なにかを言いたげな貴文さんの様子を注意深く窺っていた。