思いは記念日にのせて
「片山さん、この画像ちょっと預かってもいいかな」
「ああ、いいけど」
「それとこの件は俺に任せてほしいんだ」
脅迫文と画像が入ったファイルを持った貴文さんが緩慢な動きで立ち上がる。
まさかの展開にわたしと片山課長は目を見合わせた。
任せるってどういうことだろう。もしかしてこれを入れた犯人に心当たりがあるってことなの?
詳しく理由を知りたかったけど貴文さんの顔が悲しげに歪んでいるのを見て、なんとなく聞ける雰囲気じゃなかった。
広報部の会議室の出口まで見送ると、貴文さんは苦笑いで「ごめんな」と一言だけ残し、エレベーターホールに消えていった。
なんで貴文さんが謝るのか、わたしは納得できずにいたんだ。
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その日の夜遅く、貴文さんから届いたメールに目を疑った。
これ以上わたしに危害を与えないためにもしばらく距離をおこうという内容だったから。
だけどなぜだかそれがとても自然なことのような気がした。
貴文さんがわたしのことを心配してくれている気持ちが痛いほど伝わってくるから、受信してから少し時間をおいて『わかりました』と返信していた。
貴文さんは明らかになにかを気づいていて、それを隠しているように見えた。
それをわたしに知られたくないのかもしれない。
ただでさえ新プロジェクトが進まない状況であるこの時期にこんなことで煩わせて負担をかけているのがひどく申し訳なかった。