思いは記念日にのせて
第二十九話
まっすぐ家に帰る気になれなかった。
シャンプーが切れそうなのを思い出して閉店間際の薬局に寄ると、悠真のお母さんがレジにいた。
そうだ、ここで働いてるんだっけ。
前みたいに素っ気なく対応されるのは今のわたしには耐えられないかも。
そう思ったら自然に別の店員さんのレジのほうに並んでいた。
遅い時間なのに結構お客さんいるなあ。
ぼーっと列に並んでいたら悠真のお母さんのほうのお客さんの減りが早くて、しかしたらこっちどうぞとか言われたりしそうな雰囲気。
こっちのレジの兄ちゃん頑張れよと視線で応援したけど、悠真のお母さんのほうの最後のお客さんが会計を終えてしまった。
そのお客さんが列から抜け、こっちに向かってくる。
何気なくそっちに視線を向けると、そのお客さんは貴文さんだった。
向こうもわたしに気づいていなかったようで目を大きく見開いて驚いている。だけどすぐに苦笑いを浮かべて軽く手を挙げてみせた。
「お疲れさま、今帰り?」
「はい……」
いつもと変わらない貴文さんの態度にほっとする。
前に並んでいた人が悠真のお母さんのレジのほうに移り、わたしはそのまま若い男性にレジをやってもらった。
ちらっと悠真のお母さんを見るとにっこりと笑って軽く会釈してくれている。
疲れた表情ではあるけど前の時とは大違いで慌てて同じように返す。やっぱりわたしが並んでいたこと気づいていたんだ。