思いは記念日にのせて

「あの店員さんだよね。幼馴染のお母さんって」
「ええ」
「前と全然違うね。今日はちゃんと顔見知りって感じだった」
「ですね」

 意外なところで和やかな雰囲気になっちゃった。だけど助かったかも。
 会って何を話していいかわからなかったし、例の件に関して聞くのもまだ時期相応じゃないのかもって思ったから。

 並んで薬局を出ると、店の前によく知った顔を見つけてしまった。
 しかも傘をさしている。

「お、買い物?」
「悠真」

 なんてタイミングの悪い。
 わたしの斜め後ろに立っている貴文さんをちらっと見ると、目頭にぐっと力がこもっているように見えた。
 まるで悠真を視線で威嚇するような感じにも見える。いつもの貴文さんらしくない。

「彼氏?」
「う……」

 答えに迷って微妙に首を傾げてみせると傘を閉じた悠真がずいっと近づいてきて貴文さんに軽く頭を下げた。

「どうも、千晴の幼馴染です」
「初めまして」
「雨降ってますよ。傘持ってます?」

 なんだか気さくに貴文さんに声を掛けてるけど……わたしはスルー?
 ちょっと前まで雨なんか降ってなかったのに。

「折りたたみが」
「よかったですね。急に降ってきたから」

 悠真の手には傘が二本。
 お母さんを迎えにきたのかな。結構いいところあるじゃない。

「千晴は持ってんの?」
< 126 / 213 >

この作品をシェア

pagetop