思いは記念日にのせて
まだ隣に悠真が住んでいた時のこと。
夏休みのまっただ中、親もいなくてクーラーもつけずに家でごろごろしながら宿題の絵日記を描いていた時、インターフォンが鳴った。
ひとりの時は居留守を使っていいと言われていたけど、テレビドアフォンを見ると悠真の姿が写されていたから開けてしまった。
別に開けなくてもよかったかなと思ったけど、にこにことうれしそうな悠真を見てまあいいかって思ってた。
悠真はもじもじしながら絵を差し出してきた。
そこには白とピンクの花が描かれていて、名前はわからないけど見たことのある花だった。
夏休みの宿題でスケッチがあったからそれだろうと思ったけど、悠真はそれをずいっとわたしに向ける。
『はるちゃんに!』
なかなか受け取らないわたしに痺れを切らしたのか悠真が真っ赤な頬をぷくっと膨らませてそれを押しつけた。
そして逃げるように自分の家に入っていったんだ。
その絵の裏に小さくだけど悠真の名前と八月七日の日付が入っていたのを見て、この日にもらったことを思い出した。
なんとなく恥ずかしくて誰にも見せなかった。親にすら。
男の子のくせに自分より絵がうまいなんてなんだかプライドが許さなくて咄嗟に隠してしまっていたんだ。