思いは記念日にのせて
第三十一話
「あー千晴、待ってた」
「ひっ」
なんで悠真がうちの前にいるのよ!
しかも家の扉に寄りかかってわたしの姿を確認するなり家で留守番させられていた犬が飼い主を迎え入れるようにテンションをあげてる。
今一番会いたくないって思っていたのに、人の気も知らずなんなのよ。
意味もなく胸が高鳴ってしまうじゃない……なに意識してるのよ。相手は悠真なのに。
「頼みがあるんだよ」
「頼み?」
「モデルやってくれ」
「は、はあっ?」
手を合わせて深く頭を下げられ。一瞬何を言われているのかわからなかった。
でもわたしの耳はそれを都合よくは聞き逃してはくれなかったのだ。
モデルってどういうことよーっ。
そのまま悠真の家に拉致されたわたしはキッチンテーブルに座らされ、なぜか出されたグラタンを食べていた。
目の前には悠真も座って同じように食べている。
十月に入って夜は少し冷え込むようになっていたから身体がぽかぽか暖まってきたなあ……って、そうじゃない。
「急遽たの……はふっ、頼まれてっ、あちっ、どうしても二週間以内に……ふーふー」
「何言ってんのかわかんな……っふ」
こんなにもあつあつのグラタン食べながら話すような内容ではなかったらしい。
本人は真剣に話してるようだけど全然伝わってこない。
それでも悠真が身振り手振りを加えて話してくれたおかげでなんとなく理解ができたんだけど。