思いは記念日にのせて
すっかり食べ終わったグラタンの皿を悠真が引き下げてキッチンのシンクに置く。
「頼むよ、千晴」
「……悠真ってイラストの仕事してるの?」
不意に投じた質問に悠真が目を白黒させた後、一瞬戸惑いの色を見せた。
わたしはそれを見逃さなかった。
「……ん、まあそんなところ?」
「えっ、本当? だったらこっちもお願いがあるんだけどっ」
社内報の空いているスペースにイラストを描いてくれる人を捜していた。
今まではフリーイラストを使ったりして挿絵にしていたんだけど、それを探す時間も結構かかるからなんとかならないかと思っていたんだ。
しかもどの程度のイラストレーターかはわからないけど、曲がりなりにもプロに描いてもらえるなら願ったりだ。
「……あんまり手の込んだ物は描けないぞ。今までだったらまだしもこれから忙しくなるからあんまり時間ないし」
「とりあえず悠真のイラスト見たい」
「昔描いたのがあったかなぁ」
「雑誌に載ったのとかないの?」
「んーそういうのは……」
マガジンラックに入っていたスケッチブックを取りだして鉛筆を走らせている。
今即席で描いてくれているようだ。
そういえばこの前わたしを描いているって言ってた絵もまだ見せてもらってないや。
「こんな感じ?」
「うわっうまい!」
テーブルの上に置いてあったスナック菓子に描かれている男の子と女の子の絵が描かれていた。
模写っていうのかな。ものの数分しかたってないのにそっくりに描き上げている。
「お願いします。悠真画伯」
「画伯ねえ……」
「ちなみにノーギャラだけど」
「はあっ? まあ、千晴からもらうことなんて考えてないよ。そのかわりこっちもノーギャラだからな」
「心得ております」
手を出すと渋々と言った感じでそれを握り返してくれた。
こうしてわたし達の契約は簡単に結ばれたんだ。