思いは記念日にのせて
第三十二話
十二月の社内報の挿絵の簡単な注文を出すと、悠真は「へーへー」といいながら引き受けてくれた。
数日かかるかもよと言われたけど、とりあえず早めにお願いと伝えると「鬼」と一言だけ返ってくる。
悠真から依頼されたのモデルは本当に簡単だった。
仕事を終えて、家に帰ってきたと連絡するとすぐに悠真が来る。
で、わたしは普段と同じ生活をすればいいだけ。
悠真はしれっとリビングのソファに座ったりキッチンテーブルの前の椅子に座ったり時にはラグの上に寝そべりながらわたしを描いている。
モデルのわたしはノートパソコンで記念日のリサーチをしたり、いろんな人からもらったアンケートのエピソードをチェックしてまとめたり、本を読んだりDVDを観たりとまあ本当にいつも通りという言葉が正しいくらいだらけている。服だってだらっとしたスウェットだし。
普段の状態の身体の線とかを見ながら描きたいとのことだったからもっとボディラインが出るような服装の方がいいのかもしれないけど、なんの文句も言われてはいない。
悠真の仕事が無事に終わるまでわたしはまっすぐ家に帰るようにしている。
いつもなら一週間に一度は外食していたけど、それもせずに家で自炊するようにしていた。
ついでだから悠真の分も作ってあげると喜んでそれを食べた。
一緒に食べればいいのに、食べているところも描きたいとか言い出して結局一人で食べる羽目になっている。見られてると食べづらいと言えば、視界に入らない位置で描くようにしてくれていた。