思いは記念日にのせて
「じゃあ、まず簡単に社内を案内するから」
霜田さんが立つと、みんな立ち上がる。
ひとりぼーっとしていたわたしがそのタイミングに出遅れた。
どうやら隣のグループと一緒に回るらしい。
隣のグループの指導員は背の高い女性社員だった。身体のラインが強調されるぴったりとしたスーツを着こなすその人と霜田さんが楽しそうに笑い合っているのを見て、ちょっぴり胸が痛い。
「千晴、霜田さんとはどういう知り合いなの?」
いきなり清川さんに呼び捨てにされて仰け反ってしまう。
あ、でも美人に呼び捨てされて気分悪くないかも……。
エレベーターホールには新人の集団がわんさかになってて、順序よく乗っていく。回る順番が決まっているようで、うちの班はまず一階からと言われていた。
「霜田班乗って」
先に乗った霜田さんがエレベーターの扉を中から押さえながら誘導しはじめる。
だけどすでにほかの班の人も乗り込んでて……残るはわたしだけ?
最後とかイヤだなあ、と思いながら乗った途端、ビーっとけたたましい重量オーバー音が鳴り響く。
予想通りだった。
エレベーターの箱の中に軽いざわめきが起きる。そして冷ややかな視線が向けられた。
どの視線からも「早く降りなよ」といった感情が読み取れるようだった。