思いは記念日にのせて
「こっちです、片山さん」
神妙な顔つきの貴文さんが軽く手を挙げてこっちに近づいてくる。
時々食堂でその姿を見かけることはあったけど、遠目でも近くで見ても疲れている様子が隠しきれていなかった。まだ新プロジェクトも落ち着いてないのだろうか。
なぜか一度片山課長とわたしは別の部屋へ通されることになった。
片山課長を別室へ誘導してすぐに戻ってきた貴文さんに「元気だった?」と聞かれ、うなずきながら会議室の扉を開ける。
「え?」
扉の前に立っていたのは意外な人物だった。
苦虫を噛み潰したようなその表情からはなぜだか悲しそうな感情が伝わってくる。
なんでここに秘書課の西園寺さんがいるのだろうか。
「出水さん、お時間をいただいてごめんなさい」
深々とわたしに頭を下げる西園寺さん。
その角度や手の位置は素人目に見ても美しく完璧だった。
「あ、の……」
「座って」
勧められてU型に設置されている机の一番扉側に座ると、その席の前に西園寺さんと貴文さんが立ったまま並んで再びわたしに頭を下げる。
なんで西園寺さんが、それに貴文さんもこんなに申し訳なさそうにしているのかわからなかった。
自分だけ座っているのはなんだかとっても居心地が悪い。
促されたとはいえなんとなく中腰て立ち上がると、西園寺さんは音がするんじゃないかと思うくらいもう一度深く頭を下げてしまう。
「この画像をアンケートボックスに入れたのは私です」