思いは記念日にのせて
「千晴ごめん。それ、おれがやった」
扉が閉まった途端、高部くんが腰をぐいっと曲げてわたしに頭を下げた。
二度目の驚きにわたしはついていけなかった。
なぜ高部くんが、という疑問はすぐに貴文さんが代弁してくれた。
高部くんは仕事関係で野島さんに弱みを握られていた。
海外事業部は毎日仕事の終わりに書く海外支社からの業務日報を作成し、パソコンとファックスで送信することになっている。
その日報送信は高部くんの業務になっていた。
しかし何度かそれを忘れて帰宅し、上司に大目玉をくらっていたという。
そんな単純な作業すらまともにこなせないのであれば、海外事業部の庶務担当へ転向させると注意喚起をされていたそうだ。
元々日報送信も庶務担当の仕事ではあるけど、五月からの約半年は新入社員の定例業務になっている。
庶務担当として高部くんの前に日報送信の仕事をしていたのが野島さんで、彼女が指導していたと教えてくれた。
そして事件が起きた。
仕事にも慣れてきた高部くんは日報の作成をし、パソコンで送信を済ませた後ファックスでの送信希望の支社へ送り出した。
しかしたまたまその日ファックスの調子が悪かったのを高部くんは知らなかった。
なので送信済みリポートの確認をせず、彼は退社していたのだ。
高部くんはその日、どうしてもほしかったゲームの発売日で焦っていたという。
前もって予約ができなかったから当日券がほしかったらしく、並んでいるところを野島さんに見られてしまった。
それを上司にバラされたくなかったら言うとおりにするように脅された。