思いは記念日にのせて

「社会人として失格だってわかっている。霜田さんと西園寺さんの写真を撮ったのもおれ。アンケートボックスに入れたのもその脅迫文も、警察のふりして霜田さんの家に電話したのも全部」
「高部はやらされていただけだろ。それに西園寺と俺の写真って?」
「それは……」

 もうこれ以上隠しておけない。
 困惑顔の貴文さんにおずおずと持っていた画像を差し出した。
 そうか、写真が好きな高部くんが撮ったからこんなに素敵な画像になったんだと妙に納得してしまった。
 日付入りの画像を見た貴文さんは驚きの表情のまま固まってしまっている。
 高部くんはずっと頭下げたまま、一方野島さんはむすっとした表情を崩さない。
 そして野島さんがこの計画を実行したのは、八つ当たりとも思えるような理由だった。

「あなたがあの日、ここに来なかったら……」

 わたしのせいで野島さん自身が貴文さんに注意されたことへの恨み。
 そしてわたしが親しげに彼の名前を呼ぼうとして関係を察知したと言う。
 高部くんに手書きの脅迫文を送らせたのは、野島さん自身に疑いがかからないようにするためだった。
 実際貴文さんは脅迫文を見てすぐに高部くんが書いたものだとわかっていたそうだから、野島さんの思惑通りになったということ。

 野島さんも貴文さんを好きだったんだろうな。
 不満げな表情だったけど、最後には二度としないと頭を下げて心から謝罪の色を示していた。

 飲み会の時、高部くんが妙によそよそしかったのも逃げるように帰って行った理由もすべてつながった。
 全てのことがわかったのに、なんとなく空しくて切ない。

「部署内で君との仲がばれてしまったのはすべて自分のせいだ」

 貴文さんは申し訳なさそうに何度も頭を下げる。
 海外事業部の休憩室でデートの約束をしたのも迂闊だったと後悔の色を滲ませて。

 だけど、すべて貴文さんが悪いとは言えない。
 
 このことはもう、忘れようと思った。
 もう二度と同じことにはならないんだし、高部くんも反省している。公になればこの職場に残ることすら難しくなるはずだ。
 
 だからここにいる五人の心の中に留めておこうということで、話は終結した。
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