思いは記念日にのせて

第三十五話

 
 その日の仕事帰り。
 わたしと貴文さんは一緒に帰ってひさしぶりに夢幻亭のオムライスを食べた。
 貴文さんが社に戻らないといけないと言って別れた日から来てはいなかったけど、正直あんまり気が乗らなかった。
 ここのオムライスは大好きだけど、あの時なんで会社に戻ると言って西園寺さんといたのか責めるように貴文さんに聞いてしまいそうだったから。
 だけどお店に入ってみると意外と冷静な気持ちでいられた。

「千晴に話したいことがある」

 貴文さんはわたしの中で引っかかっていたあの日のことと過去を含めてゆっくりと話してくれた。


 貴文さんと西園寺さんは一年前までは恋人同士だった。
 それを聞いてもあまり驚かなかった。
 なんとなくそんな感じはしていたから。
 そんなわたしを見て逆に貴文さんが面食らったような感じだったけど。

「西園寺家は昔ながらの老舗の呉服屋で、長女の茜には生まれた時から許嫁がいた。長男が家を継ぐことは決まっているものの、茜は許嫁とともに新たな支店の経営を任されることに決まっている。今は社会勉強のためこの会社に就職を認められているだけで、いずれ退職する予定なんだ」

 ずっと悲しげな笑みのまま貴文さんはなにもかもを教えてくれた。
 その理由があって西園寺さんと貴文さんのつきあいは反対され、別れることになった。

 ふたりはお互いに気持ちを残したまま別れている。
 
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