思いは記念日にのせて
――霜田くんには幸せになってほしかったの――
西園寺さんの心からの叫び。
貴文さんの幸せを一番願っているのは間違いなく西園寺さんだ。
「会社に戻ると言って嘘をついたのも悪かった」
あの日、友人と飲んでいた西園寺さんはサラリーマン風の男性に言い寄られていた。
婚約者がいると言ったけど解放してもらえず、困った挙げ句に貴文さんに電話をしてきたそうだ。
西園寺さんは許嫁とあまりうまくいっていないらしいことが貴文さんの話から受け取れて……好きでもない相手と結婚しなきゃいけないのは辛いだろうな。
西園寺さんが可哀想でなんだか泣きたくなってしまう。
「それともうひとつ」
これが最後だと貴文さんが背筋を伸ばして居住まいを正す。
最も重要な話っぽくてわたしもなんとなく同じようにしてみた。
「まだ公にはされていないんだけど、十二月の頭頃からアメリカ支社へ異動になるかもしれない」
「――え?」
「まだ確定ではないんだけど、とりあえず一年から一年半の予定でそのまま軌道に乗れば三年に延びるかもしれない」
苦笑いをした貴文さんの大きな掌がテーブルの上に乗っていたわたしの手をふわっと包み込んだ。
「自分を見た人が元気になるような社会人になりたいと言った千晴に会って、ずっと一緒にいたいと思った。ついてきてくれないか」
真剣な眼差しの貴文さんを見て、わたしは言葉を失ってしまっていた。
これって、プロポーズ?