思いは記念日にのせて
9.リスタート

第三十六話


「……はる? 千晴!」

 顔の間際で掌をひらひらされてはっと現実に引き戻された。
 怪訝な顔をした悠真がわたしをねめつけ、わざとらしく大きなため息を吐いた。

「挿絵の話してるのに聞いてないって」
「ごめん」
「こっちは睡眠時間削って描いてるのに」

 ぶつぶつ文句を言いながら描いてくれた挿絵をテーブルの上に載せた。
 サンタ服を着た女の子のかわいらしいイラストは色も付けてくれていて文句のつけようがない。
 イラストを見ていたら悠真がスケッチブックを取り出してわたしを描き始めていた。やること早いな。

「いつも熱心な仕事のことなのに、上の空でなにかあった?」

 スケッチブックからわたしに視線を向ける時、わずかに上目遣いになるのが妙に色っぽい。
 そんな顔を見ると胸の奥の芯の辺りがじくじくする。
 もしかしてわたしは思ったよりも悠真を心配させているのかもしれない。
 
「あのさあ、悠真」
「んー?」
「もし悠真がアメリカで仕事することになったとして――」

 悠真がぐっと目を眇め、そのまま視線はわたしに固定された。
 まずいまずい、そんなに真剣に聞かれても困る。聞き流す程度でいいのに。
 取り繕うように両の掌でスケッチブックを示すけど、悠真はわたしから目を逸らそうとしない。まずい雰囲気だ。
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