思いは記念日にのせて

　
　恥ずかしくてバックのままエレベーターから降りようとした時、霜田さんと目が合った。
　わたしっていつもこうタイミングが悪いんだ。
　もちろんそんなの自覚してる。だけど神様、こんな時にまで意地悪しなくてもいいじゃない。

　「ごめんなさ」

　喉元で掠れた声が謝罪の言葉を告げた時、すうっとわたしの右を人影か通り過ぎた。
　とんっと軽く背中が押され、そんなに強い力でもなかったのにわたしの身体はエレベーターの中に押し込められていた。

「霜田班、一階で降りてて」

　背後で聞こえたのは霜田さんの声。
　振り返った時にはエレベーターの扉が閉まる寸前で、笑みを浮かべた霜田さんが手を軽く挙げていた。
　動き出したエレベーターの中ではひそひそと声が聞こえてくる。
　その内容までは聞き取れないけれど、なんだかすごく居心地が悪くて身を縮こませるしかなかった。

「霜田さん優しいねぇ」

　いつの間にか乗り込んでいた美花さんがこそっとわたしに耳打ちしてくる。
　本当に優しい。それに親切だ。
　どくんどくんと高鳴る鼓動が収まらず、エレベーターが一階に着くまでわたしは落ち着かず無駄にきょろきょろしてしまっていたんだ。