思いは記念日にのせて
「千晴はさ、僕にアメリカに戻ってほしいの?」
「違うよ!」
「そう。ならいいけど」
「そうだよ。早とちりしすぎ」
ふんっと鼻息を荒くして言うと、自分が悪いのかと悠真が目を剥いたのがおかしくて笑ってしまう。
それを見た悠真がまたむっとして口をへの時にするからまたおかしくて。
ひとしきり笑った後、呆れたような顔でこっちを見ている悠真にごめんと一言詫びて手を合わせた。なるべくおちゃらけないよう、だけど必要以上にかしこまらないように。
「日本に好きな人がいたら、ついてきてって言う?」
軽く聞きたい気持ちと真剣に問いかけたい気持ちが交差する。
悠真はどう答えてくれるのかな。
真剣に、それとも深く考えずに?
「難しい質問だなあ」
くしゃっと前髪をかきあげて深い吐息を漏らす。
意外に真面目に考えてくれていることに胸の奥がじくじくする。
自分のことじゃないのに、こんなにも真摯に向かい合われるとなんとなく照れくさいってか。
「本音を言えば一緒に来てほしい。でも相手側にだって日本でやりたいことがあるだろうから無理強いはしたくないな。ちなみに僕は連距離恋愛でも大丈夫な自信あるし。だけど」
満面の笑みを浮かべた悠真の口角が限界まで持ち上がる。
「千晴は違うでしょ?」
「――え?」
「千晴は千晴の思うようにすればいい」
少しだけ寂しそうに笑う悠真。
それを見たわたしはなぜだか心が痛かった。
わたしの質問にこたえた悠真にこんな顔をさせてしまったことが申し訳なかったんだ。
明日早いから今日は帰ると静かにうちのリビングを後にした悠真の背中が見えなくなっても、しばらくわたしはその場から動けなかった。