思いは記念日にのせて

第三十七話


 翌朝。
 少しだけ寝坊をしてしまったわたしは朝御飯を食べる時間もなく慌てて駅に向かっていた。
 貴文さんのことと悠真の答えの意味を考えていたらなかなか寝付けなくて、ようやくうとうとしたのは白々と夜が明けてきた頃だった。

 わたしはなにを迷っているのだろうか。
 貴文さんを取り巻くごたごたの決着がついて、リスタートを切ったはずなのに。 
 迷うことなどなにもない。好きならついて行けばいい。
 それなのに、なんでこんなに決められないのだろうか。

 プラットホームに向かう階段の途中で電車の扉が閉まる前の音が聞こえてきた。
 
「扉が閉まります」

 駅員さんの声が聞こえた瞬間、ホームに到着したわたしは扉の向こうに見知った顔があることに気づいた。
 その相手はわたしを見て目を見開いた。
 デジャヴ、じゃない。前に同じことがあった。
 あの時、わたしは手を伸ばしてその人の胸に飛び込んだ。

 だけど、今は――

「危ない」

 扉が閉まる寸前、乗っていた電車から飛び降りた悠真の紺のジャケットの胸元がわたしの視界いっぱいに広がっていた。
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