思いは記念日にのせて

 どくん、どくん、どくん。

 整わない息を落ち着かせたくて、わたしの身体は必死に肩呼吸を繰り返す。
 悠真の手がわたしの背中をそっと擦ってくれた。
 駅員さんの「駆け込み乗車はおやめください」の声が遠くのほうから聞こえてくる。

「どうして、降りたの?」
「千晴が強引に乗ろうとしてたから。危ないし一本遅れたからって遅刻ってわけでもないだろう」

 どきん、どきん、どきん。
 からかわれているはずなのに、なんでこんなにどきどきするのかわからない。

「そうだけど、でも悠真、急いでたんじゃ……」
「日本人は急ぎすぎなんだよ」

 どきん、どきん、どきん。
 何度呼吸を繰り返しても落ち着かない。

「まるで、日本人じゃないみたいな、口振り」
「ほんとだな」
「わたしのことなんかほっとけば、いいのに」

 息が詰まる。
 そんなこと思ってもいないのに、口をついて出た言葉に悠真が困ったような笑い顔になる。
 電車が目の前を通過していく。
 お互い真正面を向きながらその過ぎゆく電車を見送る。

「僕の絵、ずっと持っててくれたんだ」

 轟音の中、それでもわたしの耳は悠真の声を拾っていた。
 なんのことかわからずにゆっくりと悠真のほうを向くと、向こうもわたしのほうを向いていた。 
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