思いは記念日にのせて
「昔渡した花の」
「なっ!」
「預かった社内報に出てたのを見てすぐわかったよ。あのエピソードも」
「わあ!」
本人に見られてしまった!
イラストの見本として渡した社内報の中に悠真の絵が出てる八月号も紛れていたんだ。すごく気まずい。
「懐かしいな。あの時のこと、思い出したよ」
どういう反応を示すのがいいのかわからない。
「もうあの頃からうちの両親口もきいてなくてさ、親父は家に帰ってこないし荒んだ空気だったんだけど、千晴が隣にいるって思ったらそれだけでよかったんだ」
「……え?」
「あの日もテレビで花の特集をやっていて、夏場は手には入らないけど絵を描けばプレゼントできるなって思ってすぐにスケッチブックと色鉛筆引っ張り出して無心で描いてた」
……知らなかった。
あの絵をもらったのは柘植家がうちの隣に引っ越してきた年の夏。
そして父親と共に悠真が引っ越していったのは翌年のクリスマス直後。
離婚の理由はもちろん知らないけど、そうなるってことはその前から不仲だったのは当たり前なのかもしれない。
悠真は全然そんな素振り見せなかった。
わたしをかばったことで悠真がいじめの対象になったのはあの絵をもらったずいぶん後のことだし、その頃はずっと笑顔だったから。
悠真は家でも孤独だったのに、わたしのせいで学校でも孤独を感じさせられていたんだとこの時初めて知ったんだ。