思いは記念日にのせて
あの時、わたしだけでも悠真の味方をしていればよかった。
今更ながらそんな後悔しかない。
それなのになんで悠真はこんなにわたしに今でも優しくしてくれるの?
マーガレットの花言葉を知っていて、なぜわたしにあの絵をプレゼントしたの?
聞きたいことが後から後からあふれ出すのに、わたしは俯いたままで悠真の顔すら見られなかった。
わたしの降りる駅につく頃には隣の席も空いていて、いつの間にか悠真が座っていた。それすらも気づかないくらいわたしはぼんやりしてたようだ。
「千晴、今日はなんの日?」
耳元でささやかれた悠真の掠れた声にびっくりして全身で反応してしまった。
おずおずとそっちを向くとにっこりと笑っている。
今日は十月三十日。
「――初恋の、日」
電車が止まる。
この駅で降りる人が扉の方へ向かって歩き出す。
わたしも立ち上がって歩き出そうと一歩踏み出した、その時。
「僕の初恋は、千晴だったよ」
悠真の小さな声は、降りていく乗客の足音や動きの音でかき消されることなくわたしの耳に届いた。
びっくりして振り返ると、にこにこと人の良さそうな笑みを浮かべた悠真が「行ってらっしゃい」と小さく手を振っている。
扉が閉まる前のお知らせ音が聞こえてきてわたしは慌てて電車から降りた。
もちろん振り返ることもなくまっすぐ前を向いて歩き出す。
顔も胸の辺りも熱い。
それはしばらくおさまってくれなかった。