思いは記念日にのせて
10.乱される心
第三十八話
その日の昼休み、貴文さんからメールが来た。
少しでいいから時間を作ってほしいと。
メールで了承すると少し焦ったような感じで折り返しの電話が来たのに驚いた。いつもはメールで待ち合わせ場所や時間の確認があるのに。
仕事が終わったら海外事業部の会議室に来てほしいと言われ、緊張が走る。
あの時以来、海外事業部のある部署どころかフロアにすら近づいてはいなかった。ただ単に用がなかっただけなんだけど。
片山課長に理由を言って、少し早めにあがらせてもらうと心配そうな表情で見送られた。
海外事業部に行くと高部くんが会議室まで連れて行ってくれた。
お茶まで出してくれて恐縮しちゃったけど、ここでは性別関係なくお茶汲みもすると言われて不思議な感覚だった。
「おれが言うのもなんだけど、今霜田さんすごく大変な状況でさ……なにがあっても支えてほしいんだ」
頼むよ、と言い残して高部くんは会議室から出ていく。
片山課長も高部くんも変だ。
ふたりとも何かを知っているのに自分からは言えないといった感じで取り残された感じがする。もうすぐ貴文さんが教えてくれるんだろうけど。
ふたりが心配しているのはアメリカ支社への転勤の話?
それならもう知っていると言いたかったけど、それすらさせてもらえないからさらにもやっとするのかもしれない。
確かにまだついていくことを決めかねている。
だけどまだ時間はあるはずだし、貴文さんも返事は待つと言ってくれている。
大切なことだから時間をかけて考えたい。
「ごめん、お待たせ」
ひどく疲れた感じの貴文さんが入ってきた。
前回の出張前よりもなんだか疲労の色が濃く感じて不安になる。どこか悪いんじゃないかとすら思えるくらいの顔色の悪さだ。