思いは記念日にのせて
「アメリカ支社へ転勤にならなかったら千晴を悩ませることもなくなるんだろうけど……俺、どうしてもこのプロジェクトを成功させたい。それに縁談を受けるということは高木専務の娘と結婚すること前提になってしまうから」
悩ませてごめんな、と謝る貴文さんに首を振る。
やりたい仕事を諦めてほしくなんてない。
「どんなプロジェクトなんですか?」
今まで詳しく聞いたことがなかったけど、今日は思い切って聞いてみた。
いくら恋人とはいえ、まだ部内でしか発表されていない事項らしくて貴文さんはずっと隠しているようだった。
「海外でかなり有名な画家の作品集をうちの社で独占販売したいってことは話したよね」
「ええ……画家とまでは聞いてなかったけど」
「あ、そっか。そこも隠してたんだっけ。ほかの大手出版流通も名乗りを挙げていて正直今かなり苦戦している。元々かなりの作品を手がけている画家なんだけど作品集を出すのは初めてで、ようやく出版を了承してくれたんだ。気むずかしい画家みたいでね」
貴文さんがぷくっと頬を膨らませるからなんだかかわいくて笑ってしまった。
「あ、どんな絵を描いてるか見る? ちょうど今さっき表紙のサンプルが手に入ったんだよ。内緒で見せてあげる」