思いは記念日にのせて
持っていたファイルを広げてこっちへ向けられる。
その中に納められていたのは画集の表紙の部分のコピーで、鉛筆で書かれたロングヘアの女性の後ろ向き。しかもその表紙も下半分が写っていない。
「すごい秘密主義な人で表紙だけでもまだ全部見せるわけにはいかないって。珍しいだろう。普通表紙にはインパクトのある絵を使うと思うのに、これがいいと言って譲らなかったって。この表紙にタイトルと名前が印字される予定なんだけどなるべく目立たない小さな手書きのフォントを使いたいと細かい指示までされてるって。本当に変わりもんだよ。たぶん偏屈なおじさんだと思うんだけどね」
表紙が鉛筆、しかも線が定まっていなくて下書きっぽい。本当に珍しい写真集。
失礼だけどこういった表紙の画集は初めて見るし、売れるのかどうか気になるところだ。
「だけどこの画集が全国で発売されることになれば、爆発的な売り上げは間違いないはずだ。それをうちで独占できたら……」
「中もちゃんと見てみたい」
「ああ、うちに決まったらまずサンプルが手に入るだろうから千晴にあげる」
こんなにうれしそうな貴文さんをひさしぶりに見た。
わたしは祈ることしかできないけど、どうかお見合いの件が無事に終わってこのプロジェクトが成功しますように。