思いは記念日にのせて
第三十九話
――それから。
貴文さんはお見合いをしたその翌週にはお断りの旨を伝えた。
そしてその後すぐに転勤の辞令が下された。
本人にしてみれば願ったりの転勤だったけど上役はそうは思わなかったらしく、とばしてやったといった感じのようで出発日が早まったと聞かされた。
そしてわたしは決断を急かされることになる。
貴文さんとしてはすぐにでも一緒に来てほしいらしいけど、出発が早まってしまったしいきなりわたしも会社を辞められるわけでもない。
貴文さんがわたしを一緒に連れて行きたいと片山課長に話をしていたと聞かされて卒倒しそうになった。
なんて断りづらい状況に追い込んでくれたのだろうか。
片山課長は本当にわたしの心配をしてくれて、ゆっくり考えればいいし、必要であれば貴文さんを説得してくれると言ってくれている。
「霜田は普段は冷静沈着なくせに、この件に関してだけはかなり焦ってるな。あいつらしくもない。先行って待っていればいいのに」
片山課長に揶揄され、唇を曲げて無言の反論をするとくくっと笑いをかみ殺していた。
わたしが貴文さんの申し出を受けること前提のようなんだけど。
いやいや、まだ決めた訳じゃないと強調しないとだめなのかもしれない。
「出水さんはどうしたいの?」
茶化したような口調じゃなくいきなりまじめな声で片山課長に尋ねられる。
あまりの変わり身に息を詰まらせそうになった。