思いは記念日にのせて
それにしても悠真は見送りもしないなんて、冷たいんじゃないかしら。
アメリーは仕事のアシスタントって言ってたけど、まさか喧嘩別れじゃないわよね。
なんだか急に不安になって、悠真の家のインターフォンを何度も鳴らしたけど誰も出ない。
「なんだかなあ」
ぶつぶつ文句を言いながら家に入る。
アメリーから受け取った紙袋の中身はなんだろう。
そう言えば誰から預かったか聞かなかったけど、本当にわたし宛なんだろうか。
何の気なしに紙袋を開いてみる。
「これ……」
中に入っていたのはカンバス。
そっと取り出してみると、そこに描かれていたのは悠真の部屋にあった交差点を歩く人の完成したものだった。
スクランブル交差点の斜め端同士に描かれた二組の男女。
お互い隣に異性がいるのに、カンバスの右斜め上の方にいる女性と左斜め下にいる男性が緩やかな赤い線で繋がれている。
全体的に優しげな淡い色彩の絵なのに、他の人は影のように描かれていて繋がれた男女とその指先から伸びる糸だけがその存在を主張していた。
この絵の下書きを見た時も思ったけど、色がついてさらにその思いが強くなる。
運命の相手はすぐそばにいるのに、ちょっとしたすれ違いで気づくことができない。
まるでそう訴えかけるような絵。
「綺麗……」