思いは記念日にのせて
 
 これって油彩画っていうんだよね。
 近くで見ると絵だということがわかるけど、遠目に見たら写真と間違えそうなくらいだ。
 こういった絵をこんなに近くで見たことがなかったわたしは正直な感想をひとりごちていた。
 イラストレーターだって言ってたのに、こんなに素敵な絵を描けるなんて。 
 顔を近づけてみるけどきつい匂いはしない。もっと油臭がすると思っていた。そのくらい美術にも美術用品にも疎い。もちろんもっと匂う種類のものもあるんだろうけど。

「ん?」

 絵の右下の辺り、斜めにローマ字が書き込まれている。
 小さくてよく見えないな。

「エイチ、エー、エル?」

 独特な書き方でぱっと見よくわからなかったけど『HAL』と読めた。
 ハルって読むのかな?
 あれ、悠真の絵じゃないの。誰のサイン? 
 なんだか妙に気になってしかたがないから悠真に電話して聞いてみよう。

「ん?」

 電波の届かない位置か電源が入っていないためかからないというガイダンスが流れ出す。
 電源落としてると考えるのが妥当だろう。この辺で電波の届かない位置って想像できないもの。
 
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