思いは記念日にのせて
第四十一話
「千晴ちゃん」
うちを出た途端、悠真のお母さんとはちあたりしそうになった。
今仕事帰りだったんだ。グッドタイミング。
「おばさんこんばんは。あの……悠真は?」
「あら、あの子ったら千晴ちゃんになにも?」
信じられないと一言つぶやいた後、悠真のお母さんはわたしを見て優しく目を細めた。
「あの子らしいのかもしれないわね」
あがってと柘植家の扉を大きく開けて招き入れられる。
悠真らしい? わたしになにも?
言っている意味が全然わからなくて首を傾げるけど、悠真のお母さんに背中を押されてあがらせてもらうことにした。
ベランダ近くのソファに促され、温かい紅茶を出される。
向かいに悠真のお母さんが座って、大きなため息をひとつだけついた。
「あの、お仕事帰ってきたばかりなんですよね。お疲れのところすみません」
「ううんいいのよ。気にしないで。疲れているわけじゃないの。ただなにから話そうかと思って……ちょっと長くなるけど」
テーブルの上のカップに手を伸ばし、悠真のお母さんが一口飲んだ。
わたしもそれに習うように一口飲む。
「悠真ね、アメリカへ戻ったのよ」
「えっ⁉」
「なにも聞かされてないならびっくりよね」