思いは記念日にのせて
 
 苦笑する悠真のお母さんは嘘を言っているようには見えなかった。
 本当なんだ……悠真、アメリカに戻っちゃったんだ。
 カップを持つ手が震えてしまって、反対の手で包み込むようにしてもちっともおさまってくれない。

「あの子、千晴ちゃんに絵の仕事をしているって話した?」
「……ええ」

 やだ、声まで震えちゃう。
 悠真のお母さんはにこやかにわたしを見ていた。

「もしかしてその紙袋の中身は悠真の絵なのかしら? ちょっと見せてほしいな」
「……はい」

 謎のサインがされているし、悠真の絵かどうかはわからないけど紙袋ごと悠真のお母さんに渡す。
 それをゆっくり丁寧に取り出した悠真のお母さんは見た途端大きく目を見開いて笑った。
 素敵、と一言つぶやいて目を潤ませている。
 紙袋から完全に出された絵を両手に持って、サインの辺りを軽く指でなぞるようにしているのをわたしは視線で追っていた。

「ハル、ね」

 納得するようにうなずく悠真のお母さん。
 その表情はとっても穏やかで、ハンカチを取り出してそっと涙を拭う姿は心から喜んでいるように見えた。
 
「このサインって……」
「悠真のサインなのよ」
「ハルが?」

 思わず声を荒らげてしまったわたしに悠真のお母さんは満足そうにうなずいた。
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