思いは記念日にのせて

「出水さんはよく食べるねえ。そんなに小さな身体のどこに入っていくのかな」

 下を向いて食べまくっていたら急に霜田さんに顔を覗き込まれてぐっと食べ物が詰まりそうになった。
 おずおずと視線をあげて横目で霜田さんを見るとにこにこしていた。
 その頬はほんのりと赤みを帯びている。
 よく見るとみんなの前の食べ物はほとんど減っていない。飲むことに集中してるのかお通しすら残っている人もいる。

「す、すみま――」
「いい食べっぷり。よく食べる子って見てて気持ちいいよな」

 霜田さんの大きな手がわしゃわしゃとわたしの頭を撫でた。
 その様を新入社員三人が唖然として見ている。

「ちょっと霜田くん、セクハラ」
「これはスキンシップ」

 霜田さんの隣に座っていた美人指導者が怪訝そうな顔でこっちを一瞥し、前に向き直る。
 なんだかちょっとムッとした感じなのは気のせいだろうか。
 
「出水ちゃん、無理せずに飲むんだよ」

 わたしの持っていたグラスに霜田さんのビールジョッキが当てられてかちゃんと音を立てた。
 
「なんか霜田さんってやけに千晴に優しくないですか?」
 
 うわ、今度は美花さんが霜田さんに絡み始めた。
 トロンとした目つきが妙に色っぽいけどすでにできあがってる感否めないし。

「そう?」
「そうですよー。私だったらそんなふうに頭撫でたりしないでしょ?」

 敬語忘れてる、美花さんまずいって。
 横に座ってたらわき腹つついてやるのに、肝心のサイド男ふたりはうんうんと相づちを打って止めやしない。

「まあね、清川さんだったらしないかな」
「ほらやっぱりー」

 にまあっと笑った美花さんが勝ち誇ったような顔でわたしを見た。
 
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