思いは記念日にのせて

『この前話した偏屈画家、ずっと行方をくらましてたと思ったら急に帰国してて直接会ってくれることになったってアメリカ支社から連絡が来たんだ。今から向かう』
「えっ、今から?」
『絶好のチャンスだし、今日の最終のフライトに間に合うから』
 
 高揚した貴文さんの息が弾んでいる。
 よっぽどうれしかったんだよね。ずっとこの機会を待ち望んでいたはずだから。

「気をつけて……あっ!」

 もしかして。
 偏屈画家と言われて、ひとつの可能性が脳裏に浮かび上がったわたしは電話を切ろうとしていた貴文さんを呼び止めていた。

「貴文さん、その偏屈画家の名前って……」
『え、教えてなかったっけ? ローマ字でエイチエーエルって書いてハルっていうんだけど、日本人っぽいだろ?』

 HALで、ハル――
 
 信じられない。
 貴文さんがあんなにも探し求めていた相手が悠真だったなんて。
 
 切れた電話を耳に当てて思ったことはひとつだった。
 悠真に会えるの、うらやましい。
 
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