思いは記念日にのせて
第四十二話
その数日後。
貴文さんから電話がかかってきた。
まだアメリカ支社の方にいるとのことで国際電話で、ちゃんとこっちが昼間の時にかけてくれたのが貴文さんの優しさだと思う。
『HALが千晴の幼なじみだってこと、知っていたの?』
もちろん知らなかった。
いや、貴文さんから聞いた時はすでに知っていた。
『彼に、HALに言われた。千晴を困らせないでほしいって。そうだよな……俺、返事を急がせすぎたかも。ごめんな』
「悠真が?」
『大切にしてほしいって言われた』
なんてことを。
心の中で悠真を責めている自分に気づく。
だけどそれを悠真に聞かれていたとしても、応援しているだけなのにってむくれてしまいそうだな。きっと『千晴のためでしょ』って苦笑いしながら。
『……俺、できるのかな?』
聞き逃しそうなくらいの小さな声が、耳に入った。
きっと聞こえなかったふりをしても不自然じゃない。そのくらいのかすかなトーン。
もしかして、もしかすると。
貴文さんもわたしも……向いているのはすでに別の方向なのかもしれないと感じた。
自分だけではないのかもしれないという軽い安堵感を覚えたのも事実。
だけどそれではいけないんだ。
わたしはちゃんと自分の思いを伝えないといけない。