思いは記念日にのせて
『千晴』
「……はい」
『俺と』
「ごめんなさい!」
目の前に貴文さんはいないのに、思い切り頭を下げていた。
それこそキッチンテーブルにごちんと頭をぶつけるくらい。そしてそれでちょっとくらっとしてしまっていた。本当に馬鹿なわたし。
「わたし、アメリカへは行けません……」
『……』
受話器越しに貴文さんの小さなため息が聞こえる。
「自分の気持ちに気づいたんです……」
『誰を思っているのか?』
はいって言ったつもりなのに、声になってなくて。
ただうなずくだけのわたしの気持ちは貴文さんは届いていないかもしれない。
だから、言葉にした。
「悠真が、好きです」
ようやくそう口にした瞬間。
思いが現実のものになってわたしの中にすとんとはまったような感じになった。
『知ってたよ』
ふ、とかすかな吐息を含んだ笑い声。
驚きがわたしの呼吸を一瞬止める。
『住んでいる場所が近いって善し悪しなのかもな。時々千晴と彼が一緒に歩いているのを見かけてたんだ』