思いは記念日にのせて
全然気づかなかった。
たぶんふたりで歩いていることは少なかったはず。
近くにアメリーがいたと思うけど、わたしと悠真が並んで歩いていることが多かったかもしれない。アメリーは歩くのが早いのだ。足の長さの違いかもしれないけど。
……もしかして、悠真はわたしの歩くペースに合わせていた?
『なんて言うのかな、とっても楽しそうだった……うん、そうだな。心から笑っているように見えた。俺といる時には見たことのない顔だった。だから、千晴の答えはわかってたんだ』
それなのに、ごめんな。
つぶやくような貴文さんの小さな声に胸が詰まる。
ぐっと歯を食いしばってから大きく息を吸い込み、心の中でゴーサインを出す。
「わっ、わたしのほうこそごめんなさい! 貴文さんは全然悪くなくってわたしが悪いのに……っ、それなのに」
『俺が悪くないってことはないよ。千晴につらい思いをたくさんさせた。脅迫状のこともそうだし』
「そんなのっ! ぜんっぜん!」
『もう、やめようか?』
貴文さんがぷっと小さく笑う。
一瞬なんで笑うのかわからなかったけど、なんだかお互いがやっていることを思ったらおかしくなってつられて笑っていた。
お互い悪くてお互い悪くない。
それで終わりにしようって貴文さんが笑うから、わたしも笑って納得した。
そして、お互い『ごめんね、そして、ありがとう』と言って電話を切った。