思いは記念日にのせて

 HALの画集がうちの会社で独占販売できることが決まった。
 もちろん貴文さんのプロジェクトメンバーが頑張ってプレゼンしたからだ。
 貴文さんはわたしのおかげだというけど、絶対にそれはない。
 悠真がひとりがうちの会社に決めたわけじゃないはずだし、わたしはなにもしていない。
 それに……わたしはあれから悠真とは全く連絡が取れていないんだから。

 悠真のお母さんからは「落ち着いたら悠真の方から連絡する」という伝言をもらっているけど、一向に来ていない。
 だから今はとっても忙しいんだと思う。
 もちろんおとなしく連絡を待っているつもりだけど、メールのひとつくらいくれてもいいのに。
 もしかして、わたしとはもう関わりを持ちたくないってこと……じゃないよね。

「結婚式には帰国してくださいよ?」
「んー時間あったらな」
「んもう! そういうのって今じゃ社畜って言うんですよ!」

 研修メンバーからカップルができあがったのは本当に喜ばしいと貴文さんも高部くんも満面の笑顔だった。
 楽しそうな貴文さん見て、わたしも本当にうれしかった。

 だからこの時、貴文さんが大変な事態に巻き込まれているなんて全然気づくことができなかったんだ。
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