思いは記念日にのせて
「出水さん、お客さんだよ」
個室でアンケートの集計をしていたら片山課長に声をかけられた。
お客さんなんて珍しいことだ。
わたしが訪問することはあってもこっちに来られる用ってないんだよね。
「あれ、確か霜田の元カノだよね」
片山課長が広報部の入口を親指でこそっと示したその先に立っていたのは、間違いなく秘書課の西園寺さんだった。
なんとなく険しい表情をして立ち尽くしているその姿はデートの待ち合わせで待たされているかのような雰囲気を醸し出している。
急いで近くに寄るとわたしの姿を捉えた途端、その険しさは取れるどころかさらに眉間にくっきりと深い皺を刻み込んでいた。
「あの……」
「ちょっと話があるの」
昼休憩、ほんの少し前に終わってしまったばかりなんだけどな。
片山課長にちらっと視線を向けると、困惑顔で二回うなずきが返ってきた。あ、これは許可の印だ。
そしてなぜか広報部の男性社員が一斉にこっちを見ている。
こっちというか、西園寺さんを見ているんだけどその表情がとろけそうな感じ。鼻の下を伸ばしきっている人もいる。
そんな視線に気づいているのか軽く会釈をして広報室を出ていく西園寺さん。一瞬「おおっ」とどよめきが起きたのは聞き間違いじゃないはず。