思いは記念日にのせて
「どういう、ことですか?」
「どうもこうも! 高木専務の娘がどうしても貴文を諦められないって押し掛け女房よろしくアメリカへ飛んで言い寄っているのよ。あなたなにも聞かされていないの?」
信じられないと目を丸くした西園寺さんが苛立ちを隠そうともせず頭を小さく左右振る。
多少のあきれた感を含んだその眼差しを向けられても知らなかったとしか言いようがない。貴文さんは何も言ってなかった。
いや、言えなかったんだ。
「このままじゃ貴文が言いくるめられてしまうかも……」
不安そうに顔をしかめる西園寺さんを見て、真実を告げるのは今しかないと思った。
「西園寺さん、わたし達もう終わっているんです」
「ええっ⁉」
むしろ貴文さんが西園寺さんにそれを言ってなかったことがわたしには驚きなんだけど。
驚きを隠せない西園寺さんが唇をわなわなと震わせている。
「そ、んな……じゃあ、え? 私、貴文のところ行ってもいいの?」
「は?」
「あなた以外の人に取られるくらいなら、私が奪いに行っていいのか聞いてるの!」
耳まで真っ赤にした西園寺さんが怒ってそんなことを言うもんだからかわいくて、なぜか泣きたくなってしまった。