思いは記念日にのせて

「もちろん……どうぞ!」
「ったく、なんなのよ! あんた達っ……」
「でも西園寺さん、おうちとか婚約者とか――」

 言ってからまずいと思ったけどもう後の祭り。
 驚いた表情で西園寺さんがわたしをまじまじと見つめていた。

「もしかして、みんな知ってるの?」
「……はい、だいたいは」
「まいったな……そっか……」

 ハハッとさして楽しそうでもない感じで笑う西園寺さん。
 片手で顔を覆いながら動揺までも隠そうとしているのかもしれない。必死に見えるその姿から今までの近寄りがたい雰囲気が一掃されたようだった。

「私の相手、恋人と駆け落ちして破談になったの」
「――ええっ⁉」
「あの人も親の敷いたレール通りに生きる人生よりも自分の大事な人を選んだってことでむしろよかったんだけどね。でも、貴文はもうあなたとつきあっていたし諦めるしかないって思ってた。だけど――」

 いいの? と強い視線をぶつけられる。
 わたしはそれに負けないよう強くうなずき返していた。
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