思いは記念日にのせて
『泣いてるの?』
「うれしくって……」
『そっか』
俺もうれしいと貴文さんが笑う。
西園寺さんがなんの予告もなく押し掛けてきて、高木専務の娘さんと言い争いになりながら彼女が追い出したらしい。すごいとしか言いようがない。
もう一度最初からはじめてほしいと西園寺さんに言われ、戸惑いよりも喜びの方が勝っていたことも正直に話してくれた。
やっぱりお互い気持ちを残していたままだったんだね。
貴文さんの赤い糸は最初から西園寺さんに繋がっていたんだ。
最初から最後まで貴文さんは何度も『ありがとう』という言葉を繰り返してくれた。
その中に時折混じりそうになる『ごめん』を何度も飲み込んでいたこともわたしは気づいていたんだ。
その言葉を言わないでくれて本当によかった。
『次は君の番だ。応援はしてるけど、彼のアシストをするつもりはないよ』
「――え?」
意味深な言葉を残して電話は切れた。