思いは記念日にのせて

「なんでずっと電話くれなかったのよ!」
『忙しかったんだよ。身体があく頃そっちは真夜中だし、僕だって連絡したかったさ』
「それでも少しくらい」
『だから今こうして連絡しただろう』

 ……確かに。
 だけどそれが貴文さんのことだったから素直に喜べないんだ。

『千晴、フラれたのか?』
「失礼な。なんでそう思うのよ」
『あんな美人と結婚するって言われればそうとしか思えないだろ』

 失礼極まりない。
 受話器の向こうでぶつぶつ言っている声が聞こえてくる。
 
「ちゃんとお互い納得した上で別れたの」

 そう伝えながら部屋の電気をつける。

『……そうなのか。残念だったな』

 少し間があった後、沈んだような悠真の声。
 なんでそんなに落ち込んだような声なのか、わたしの胸がざわめき出す。
 聞くのは怖いけど、ちゃんと確認をしておかなければならないことだ。

「残念って?」
『千晴、貴文と一緒にアメリカ来るつもりだったんだろう。そこまで決めてたのにこんな結果になってさ』
「こんな結果って!」
『なんだよ。落ち込んでると思って電話してやったのに』

 ぶつくさ言ってる。
 悠真はわたしが貴文さんに未練を残していると思いこんでいるんだ。
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