思いは記念日にのせて
一次会終了後。
すでにわたしはもう飲めないくらいいい感じに酔っぱらっていた。
意識ははっきりしている。ややふらつくけどまだひとりで帰れる範囲だ。
これから二次会があるそうだけど、速やかに辞退して帰ることにした。
静かに消えてしまえばバレないだろう。会費を払った後にトイレに行ってしまえばわたしがいないことなんて気づかないはず。そう思ってすすーっと立ち上がって摺り足でトイレに向かう。
「出水ちゃん、駅どこ?」
トイレの扉を開けようとした時、背後から声をかけられてわたしは飛び上がりそうなくらい驚いてしまった。
声と呼び方でその主が霜田さんだということは姿を見なくてもわかったからおずおずと振り返るとにこにこしながらわたしを見ている。
「鈴木町です」
「マジ? 送るよ」
「えっ? でも、二次会……」
「出水ちゃん酔ってるしもうやめたほうがいいよ」
「わたしじゃなくて」
「あ、俺? もう断って先行かせたよ。向こうのグループのOJTリーダー行ったし、いいでしょ」
霜田さんがわたしを送ってくれるなんて。
しかもふたりきり。どうしようどうしよう。いきなりそんなシチュエーション望んでないし。
ここから鈴木町まで電車で三十分以上あるのに何話していいかもわからないし。
ひとりでプチパニック起こしていたら霜田さんが苦笑いしてわたしを見ているのに気づいた。
「そんな緊張しなくていいのに。あ、もしかして警戒してる?」
「ちっ! 違っ、違いますっ」
霜田さんがほっとした表情を見せてニッと口角をあげて笑う。
「じゃよかった。俺も鈴木町なんだよ。すごい偶然」
「ええっ?」
霜田さんと最寄り駅が一緒。
それを知って、驚きのあまりわたしは後ろにひっくり返りそうになってしまっていた。