思いは記念日にのせて
ゴールデンウィークはまた去年と同じで記念日調べと七月分のエピソードチョイスで終わってしまった。
わたしの仕事は月初めから中旬が忙しく、下旬になるとその波が少し緩やかになってゆくのだ。
これも一年この仕事をしてわかったことなんだけどね。
六月の下旬には美花さんと茅野くんの結婚式が控えている。
と、いうことでわたしが自由になるのは五月の下旬に入ろうとしている今だけ。
一週間の休暇を取って悠真の元へ行く決心をしていた。
もちろん飛行機は苦手なんだけど……しょうがない。
だって待てど暮らせど悠真は帰ってこないし、時々メールをくれるくらいだし、しかもそれだって『元気か? こっちは忙しい』ばっかりだし!
まあわたしもまめじゃないからお互い様なんだけど、いきなり行って驚かせてやろうと思っている。
狙うのは、五月二十三日のキスの日。
取り合えず前日には到着するようにして、一泊は空港そばのホテルを予約。そして翌日、悠真のアトリエにこっそりとお邪魔する手はずになっている。
もちろんこんな計画一人じゃ立てられない。
協力者はアメリカ支社にいる貴文さんと同棲中の西園寺さん、そして悠真のお母さん。
前もって会社のそばのクリニックに行き、初めて飛行機乗ることも相談した。
怖いんですって泣きついたら睡眠薬を二錠だけ処方してもらえた。行きと帰りの分ということで助かったかも。
……と、思いきや空港に着いただけで緊張が最高潮に達している。
夜のフライトの方が怖いと思ったから朝にしたんだけど、それでも怖いものは怖い。
「おばさん、今から搭乗する……」
『大丈夫、気を強く持つのよ千晴ちゃん。連絡は任せておいて。ちゃんと口止めもするから』
「よろしくね…」
搭乗する直前、悠真のお母さんに電話をしてから携帯の電源を落とした。
悠真には内緒で行くから、わたしが離陸したら悠真のお母さんからアメリーに連絡をしてくれる手はずになっている。
「うん、すべてがうまくいきますように」
睡眠薬を内服し、胸の辺りを手で押さえながら搭乗ゲートへ向かった。