思いは記念日にのせて

「ついた……」

 飛行中は思ったより大丈夫だったんだ。
 ただ離陸と着陸の時は死ぬかと思うくらい震えが止まらなくてどうしようかと思った。
 隣の席に座っていた女子大生の子が離陸時も着陸時も手を握っていてくれた。わたしの顔面蒼白度はかなりのものだったらしい。
 その子が窓際の席だったんだけど途中で変わってもらったりもして、雲の上を飛んでいるのを見てびっくりした。まるで映画の世界のように思えた。
 下はもちろん見れなかったけど、こんな風景一生見られないと思っていたからなんだか世界観が少しだけ変わったような気がしたくらい。
 親切にしてもらってうれしかったから、思わず名前を聞いてしまって「こはるです」と言われたことに驚いたんだけど。『はる』つながりでね。
  
 十三時間のフライト、そして時差もだいたいそのくらい。
 だからわたしが日本を離れた頃の時間に巻き戻ったような感覚になっている。
 気候もさほど暑くない。着ていた薄手のアンサンブルにジーンズでちょうどいいくらい。
 なんとか入国手続きを終え、ゲートをくぐる。
 さて、悠真のお母さんがアメリーに連絡してくれているはずだから電話してみようかな……思いきや。

「千晴!」

 こっちに向かって大きく手を振るアメリーの姿があった。
 人混みの中でもひときわ目立つ美しさ。
 もちろんこっちの人はみんな背が高くすらっとしていて美人さんが多いんだけどアメリーはピカイチ輝いて見えるなあ。
 約半年ぶりの再会にうれしさのあまり駆け寄って手を伸ばした。
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