思いは記念日にのせて
1.出会い
第一話
「すごい雨……」
自動ドアの向こうは雨にけぶり、遠くの風景がよく見えないくらいだった。
だけどずっとここにいるわけにもいかない。
一歩踏み出すと自動ドアが開き、ざあーっと雨音が聞こえてくる。
同時に雨の匂いを感じた。
駅まで約五分。空を見上げると黒い雲の動きが激しい。夕立っぽいし、もう少し雨宿りすればもしかしたらやむかなあ。
だけどずっとここに立っているわけにいかない。
ショルダーバッグの紐を握ってなるべく正面玄関の端に寄った。
振り返ると閉まった自動ドアの向こうに総合受付のカウンター内に座った美人の女性社員がふたり笑顔で話している姿が見える。
当たり前だけどこっちのことなんかお構いなし。
とにかく邪魔にならない位置に移動しておいたほうがよさそう。
オフィスのエントランスホールにあるソファに座って雨宿りをする勇気はなかった。
なぜならわたしは今日この会社の就職試験を受けに来た学生だから。
リクルートスーツを着て大胆に座っていられるほど肝っ玉は大きくないし、どちらかと言えばガラスのハートの持ち主の自信がある。
しかも今日は二次試験、最終面接だった。
筆記試験はまずまずの出来でパスできたものの、今日の面接は最悪だった。
何を聞かれてどう答えたのかテンぱりすぎて思い出せない始末。あんなに何度もシミュレーションして面接の練習もしたのに!