思いは記念日にのせて
「ゆ……ま」
「Do you know what day it is today?」
「……へ?」
流れるような英語を発する悠真。
あまりにも早くて聞き取れなかった。
唇をへの字に曲げた悠真が大きい歩幅で近づいてくる。
目の前に立ちはだかった悠真が、もう一度同じように小さな声でわたしに尋ねてきた。
今日は何の日と聞かれているのはわかる。
だけどなんて答えていいのかわからなくて、悠真の両腕に手を伸ばしてそっと触れた。
顔を上げて悠真の顔をじっと見つめるだけで、涙の幕がわたしの視界をぼやかせる。
きょとんとするわたしを見て、悠真の口角がくっとあがった。
さっきまで怒っているふうだったのに、いつの間にか暖かく包み込むような優しい笑顔に変わっていた。
「Today is day of the kisses」
わたしが理解できないとわかっているはずなのに、意地悪な悠真はまた流れるような英語を発してゆっくりと顔を近づけてきた。
なんだか悔しいけど、悠真がキスの日を覚えていてくれたのがうれしくてわたしはそっと目を閉じた。
「会いたかった」
唇同士が触れる寸前、ささやいた悠真の声が吐息と共にわたしの耳に優しく届いたんだ。