思いは記念日にのせて
「わた――」
わたしも、と最後まで言わせてもらえず悠真の唇が重ねられる。
唇の感触を確かめるようにスタンプみたいに押しつけらるたび、わたしの身体はびくびくと反応を示してしまっていた。
悠真の指先がわたしのうなじを撫でるように優しく触れながら、親指の腹で顎の輪郭をなぞりあげてゆく。
「んっ、んぅ」
それがくすぐったくて変な声がでてしまう。
必死で抗議しようとしても唇は解放してもらえない上に、なんだか身体の中心が疼くような変な感じで立っているのが辛い。
「ゆ、ま……もぅ」
わずかに唇が離れた隙に声を上げると、ようやく解放された。
酸素を求めて唇も目も大きく開くと、眉を下げて苦笑いをする悠真がわたしの頬をそっと撫でた。
「僕が帰ってくるの待っててって言ったのに」
「……だって」
「そんなに会いたかった?」
揶揄するような瞳でわたしの目の奥を探ろうとじっと見据えてくる悠真が正直恨めしかったけど。
「そうよ! 悪い?」
自分の気持ちに気づいてしまっている今、開き直ってしまうのが一番だと思った。
まさか認めるとは思わなかったのか、悠真の顔がかっと赤くなる。
あれ、耳まで赤いんだけど……どうしたんだろうか。
「悠真?」
「ったく、なんでこんな時に」
片手で顔を隠すようにして、横を向いてしまった。
もしかして、照れ顔を見られるの恥ずかしい……とか?
「ぷっ」
「あっ、笑ったな」
ぐいっと身体を離されたのと同時に悠真はわたしに背中を向け、うちの扉に向かって何かをぶつぶつ言い始めた。
うわあ、照れてる照れてる。
こんな悠真を見るのは初めてでちょっとだけうれしいような勝ったような心境になってしまう。
「くっそ、今日は覚悟しておけよ」
「え?」
「早く、鍵!」
親指で扉を指さしながら怒ったような口調でせかすもんだから、笑いを堪えてそれに従った。
あれ、覚悟しておけってどういう意味なんだろうか。