思いは記念日にのせて
「そうですよね、じゃあ今度行きましょう」
「やった。うれしいな。最近我慢してたんだよね」
「我慢? そこま、きゃっ」
どんっと後ろから何かにぶつかられてふらついたわたしは転びそうになり、霜田さんに抱き留められた。
「あ、すんません」
「前見て歩けよ」
ぶつかってきたのは大学生風の男の人で歩きながらスマホを見ていたのを霜田さんに冷ややかに注意されるとちっと舌打ちをして何事もなかったように歩いて行ってしまった。
「大丈夫? 出水ちゃん」
「はい、すみません。ありがとうございます」
片手で抱き留められたことも、そのままの状態をキープしてしまっていることも恥ずかしくて慌てて離れた。
うわあ……アクシデントとはいえ、なんておいしいシチュエーションだったんだろう。
だけどこんないきなりなの心臓が持たないよ。ドキドキがおさまらない!
「出水ちゃんも少しふらついてるし、掴まりなよ」
霜田さんの肘がくっと目の前に差し出された。
これは……腕を組んでいいという合図でしょうか?
生唾がごくりと喉を通過し、大きな音を立ててしまう。やだ、この音聞かれてたらどうしよう。
じっと下から霜田さんを見上げると、困惑顔で笑っている。
「え、いや? 言った手前恥ずかしいんだけど」
「いえっ、いやじゃないです!」
いやだと思われたら目も当てられない。
このチャンスをものにせずいつするのか。今でしょ? と某塾講師の有名台詞が頭に浮かび、その腕にすがりつくように手を差し伸べた。
やっぱり霜田さんは背が高い。わたしの頭は霜田さんの肩の辺りと同じくらいだった。